専修大学 ネットワーク情報学部 宮津和弘教授

今回の取材では、専修大学ネットワーク情報学部の宮津和弘教授にお話を伺いました。

専修大学ネットワーク情報学部の宮津和弘教授に関する独占取材では、データサイエンスとマーケティングサイエンスが交わる領域での画期的な研究を紹介します。工学からITシステム管理、マーケティングコンサルタントを経て、現在に至るまでの幅広いキャリアが、宮津教授の研究に独特の視点を提供しています。消費者行動の解析からダイナミックプライシングの研究まで、その研究領域の広範を掘り下げます。

インタビューを受けていただいた人

専修大学 ネットワーク情報学部 宮津和弘教授

東京工業大学工学部電子物理工学科卒業後、米国イリノイ大学修士課程(University of Illinois, Urbana-Champaign)へ留学し、デジタル信号処理を学ぶ。帰国後、米国通信機器メーカーで研究員としてワイヤレス通信技術開発に従事する。欧州通信機器メーカーではBluetoothの黎明期から関わり、新しい2.4GHz帯ワイヤレス通信機器の普及に努める。欧州小売企業ではIT担当責任者として基幹システムの導入と運用を経験し、早稲田大学ファイナンス研究科では高頻度取引データ研究に従事しながらMBAを取得する。消費者購買履歴データを用いたマーケティングサイエンス研究に専念するために、マーケティング分析を専門とする米国ベンチャー企業へ転職を機に筑波大学ビジネス科学研究科でデータサイエンスを学び、博士(経営学)を取得する。その後、外資系データプラットフォーム会社等を経て大学専任教員となり、現在は専修大学ネットワーク情報学部教授としてマーケティングとデータサイエンスの研究・教育に従事している。

目次

自己紹介をお願いします

現在,専修大学ネットワーク情報学部の教授としてデータサイエンスおよびマーケティングの領域を担当しています。

主な研究としては、様々なビッグデータに対して機械学習や統計科学を活用しながら、市場現象や消費者行動の分析をしています。

特に、マーケティングに関する問題をデータサイエンスで解明するマーケティングサイエンスが専門です。元々は工学部出身のエンジニアで、無線通信の研究開発をしてきました。その後、外資系事業会社でITシステムの責任者、マーケティングコンサルティング企業の日本代表などを経て、大学の専任教員として現在に至ります。

専門分野や、その魅力について教えてください

マーケティングとは、商品やサービスが売れる仕組みを構築していくことで、マーケティング4Pミックスと呼ばれる商品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、宣伝(Promotion)をターゲット顧客に合わせて最適化することです。

従来のマーケティングでは、担当者の勘や経験に基づいて広告やプロモーション施策が立案されていました。マーケティングサイエンスは、それをデータにもとづいて科学的に最適化していくアプローチです。

具体的には、ID-POSデータという消費者個別の購買履歴データを用いて、来店間隔、購買点数、宣伝広告やプロモーション、価格などに対する数理モデルをデザインして、実際のデータを用いて実証し、最適化します。さらに、これら分析結果を通して潜在的な消費者行動の傾向を明らかにしていきます。

マーケティングサイエンスでは、消費者は状況に応じてどのような意思決定を下しているのかを理解することで、人の消費行動をより深く理解出来ることは大変魅力的なことだと感じています。

最近の研究テーマについて教えてください

最近では、商品やサービスの価格を状況に応じて動的に変化させるダイナミックプライシングについて研究しています。

もともと1970年代に米国で航空およびホテル業界において、レベニューマネジメントとして実施されていましたが、最近では在庫として将来に繰り越せない商品やサービスまで拡張されています。

例えば、スーパーなどで閉店近くになると、お弁当が30%割引などと安くなっているのをよく目にするかと思いますが、それをいつ、どのくらい割引けば良いのかをデータから推定します。

さらに、商品やサービスの価格には消費者ごとに最適な価格があるという消費者異質性を仮定して、パーソナルダイナミックプライシングの推定を試みています。

インターネットとスマホが普及したデジタル化市場において、広告、商品やサービス、販売チャネルといったマーケティングミックス「3P」のパーソナル化は進んでいるにも関わらず、価格のパーソナル化は遅れています。

経済学の一物一価の法則により、平等で安定した市場では、商品やサービスの価格はすべての消費者で同一となります。しかし、EC市場が拡大し、会員レベルによってポイント付与や割引率が消費者ごとに異なることに対する違和感を抱かなくなっている現代市場において、価格のパーソナル化は今後、一般的な価格戦略として期待できる領域だと考えています。

研究活動における挑戦と成果に関して教えてください

マーケティングサイエンスでは、データの背後に潜む消費者や市場の動機や傾向を理解することが重要となります。

例えば、伝統的な経済学では、市場には代表的な経済主体を仮定して、それが合理的な意思決定のもとに行動しているということが前提となっています。同様に、各消費者も効用最大化原理に従って、自分の効用が最大になるように行動していると仮定することが多いです。

しかしながら、各個人の効用特性は人様々であり、個人の置かれた状況によっても異なります。高度経済成長期であれば、消費者行動特性の同質化を仮定できたかも知れませんが、豊かになった現代社会では無理のある前提です。そこで、消費者異質性に対処する統計技術として階層ベイズが開発され、異なる消費者を一つの数理モデルで扱えるようになりました。

一方、同一消費者でも状況に応じて異なる行動特徴を表すモデルは、特に確立されておらず、単純に状況ごとにモデル推定して比較することが考えられます。これについては、状況を表す変数と閾値を設けて、その前後で行動特性が変化するというレジーム遷移モデルも利用されるようになりました。

このような状況で、私がチャレンジしたのは階層ベイズとレジーム遷移を統合することでした。

具体的には、消費者の購買特性が給料日からの累積購買金額でどう変化するかを解明しようというものでした。さらに、ここで問題なのが、状況指標の原点となる消費者の給料日は開示されておらず、それさえも推定しなければなりませんでした。

推定値にもとづいて、特性レジームの推定をすることになるので、モデル推定が不安定となります。

ここでもう一つのチャレンジが、構築したモデル推定が本当に出来るかということでした。結果的にモデルの推定値は現実と大きな乖離も見られず、階層ベイズとレジーム遷移の統合を実現することが出来ました。

宮津和弘教授教育活動における哲学と目標について

私は学生たちに講義で得られる知識よりも、それを学ぶ過程で得られる事を大切にしようと常々伝えています。

学んだ知識は使わなければ忘れるものですし、自然科学などを除いて、新しい知識で上書きされる事も日常茶飯事です。このような状況で、レポート課題に没頭してやり切った感が得られるように取り組むように促しています。

一生懸命に取り組む姿勢を少しでも身につけてくれれば、将来社会に出たとき、自身の助けになるはずです。また、その姿勢が身につくと、素人が専門家となれるとも伝えています。これは、私がコンサルタントをしていたときの経験からなのですが、様々な案件を扱う中、未知の領域でも一生懸命に調査と考察を重ねることでクライアントと同程度の専門家に短時間でなれるということです。

もう一つ私が大切にしていることは、頭体心のバランスを保つということです。

学期中、学生は一生懸命に勉強してもらうのは前提ですが、それと同時に運動を定期的に行う必要があります。部活やサークルに入る学生が少なくなっていますが、近所のジムに通う、自宅で筋トレするなどで取り組んで欲しいと思います。

3つ目として重要なのが心です。

これが最も難しいのですが、音楽、絵画、映画、アニメ、推活、瞑想など心に直接影響を与えるものに触れ合うことで心も活性化されます。それでも難しい場合、学生には恋愛しろと言っています。

最後に、人生100年時代のリスキリングとして、勉強は一生続けろと助言してます。

特に、社会人になって問題意識が芽生えれば、働きながら大学院に通っても良いわけです。実際、私も大学卒業後、米国大学院に留学し、働きながらMBAを取得して、最後は別の大学の博士課程で学びました。大学を4校卒業している勉強オタクです。

最後に学生へ向けたメッセージをお願いします

日本はバブル期以降の失われた30年、新しい産業で市場を牽引することは出来ず、モノづくり日本に固執していました。その間、新興国に生産技術で追いつかれ、先進国には情報通信産業で先を越され、GDPではドイツに抜かれて世界第4位であるのが現状です。

この状況を打破するには、AI・データサイエンスを活用した新たな産業の創出、または既存産業の効率を向上させなければなりません。そのためにも、データサイエンスを学び、日本を再生する気概のある学生を求めています!

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