名古屋市立大学大学院経済学研究科 坂和秀晃准教授

今回の取材では、名古屋市立大学大学院経済学研究科の坂和秀晃准教授にお話を伺いました。

東京大学経済学部を卒業後、大阪大学で博士号を取得し、米国のコロンビア大学ビジネススクールでフルブライト研究員として研究を行った経験を持つ坂和准教授は、コーポレート・ガバナンスの分野で活躍する経済学者です。企業経営の透明性と健全性を追及する坂和准教授の研究は、現代経済学における重要な課題の一つに光を当てています。

インタビューを受けていただいた人

名古屋市立大学大学院経済学研究科 坂和 秀晃准教授

東京大学経済学部卒業後、大阪大学経済学研究科で博士(経済学)取得。2017年から1年間フルブライト研究員プログラムを活用して、コロンビア大学ビジネススクールに留学、金融庁金融経済研究センター特別研究員などを経験。2021年からは、ファイナンス分野のアジア太平洋地域の国際学会のAsian Finance Association 理事(Board of Directors)を務める。現在、名古屋市立大学大学院経済学研究科准教授として、コーポレート・ガバナンス分野を中心とした研究・教育に従事している。

目次

専門分野とその魅力について

専門分野としては、コーポレート・ガバナンス(企業統治)コーポレート・ガバナンスの実証分析を中心に研究を行っております。コーポレート・ガバナンスとは、上場企業に株式投資をするなどして出資した株主などが、企業経営者に対して、健全な経営を行うように「規律付け」をどのように行うかといったことを研究した分野です。

昨今の日本企業では、「東芝」の不適切会計などの様々な経営者が、株主の利益に反する行動を行う事例も多く発生しており、どのようにそのような問題を解決していくかについてが、学術面からも実務面からも重視される課題になっております。したがって、そのようなテーマを研究することの意義は大きいと考えています。

最近の研究テーマ及びその背景について


現代取り組んでいる研究テーマとしては、「日本企業のコーポレート・ガバナンスがどのように変遷したのか?」、「その変化がどのような影響を社会に与えたか?」という研究が中心になります。

私が大学院生だった頃に、「コーポレート・ガバナンス」の研究は、どちらかというと、旧商法が、会社法に改正される中で、「どのような法律的な変化があったか?」というような法学の研究社による研究が中心で、経済学・経営学分野のデータを用いた定量的な研究は少ない印象でした。当時は、米国型のコーポレート・ガバナンスの仕組みとして、企業経営者への「規律付け機能」を高めるための「委員会等設置会社」の設置、企業経営者への「ストックオプション型報酬の付与」が可能になるなどの制度変更が行われており、日本企業の今後に関する数多くの実務的な議論が盛んであった記憶があります。

一方で、「果たして、これらの制度変更は有効だったのか?」という観点からの定量的な分析は十分に進まなかった状況が長く続いたように思います。したがって、「米国型のコーポレート・ガバナンスの制度を導入した日本企業のコーポレート・ガバナンスは果たして改善したか?」という点については、不明なままという状況が長く続いたように思います。

研究活動における挑戦と成果に関して

私は、コーポレート・ガバナンス分野における実証分析を中心とした研究活動を行ってきました。実証分析には、大まかにいって、3段階の研究ステップがあります。1段階目で、事前に検証したいテーマと研究で明らかにしたい問いを決め、2段階目で、検証したい問いを明らかにするために必要な「データ」を収集し、最後の3段階目で、収集した「データ」を用いた検証を行い、その結果をまとめるといった形になることが多いと思います。研究を始めた頃は、まず1段階目でつまずくことが多かったのですが、徐々に分野の内容に詳しくなると、むしろ2段階目の必要な「データ」を収集する段階、あるいは3段階目の検証の段階でつまずくことが多くなりました。たとえば、3段階目でつまずいた場合は、2段階目で立てた問いに対する予想自体を変える必要があることも多いです。その意味では、過去の研究からの予想と現実の社会の変化の両面を見て、研究を進めることが大切かと思います。

顕著な成果としては、2022年にJournal of Business Ethics 誌という著名な査読付きジャーナルに掲載した”Accounting Frauds and Main-Bank Monitoring in Japanese Corporations”という研究が挙げられます。同研究では、日本において増えつつある「不適切会計」の問題を防ぐためには、企業が資金を借りている銀行が大株主になっている場合は、銀行サイドが、企業経営者の「不適切会計」のような行動を防ぐような「規律付け」を行う傾向にあることを示しています。コーポレート・ガバナンスの問題を考える必要に迫られている昨今の日本企業にとっては、銀行との関係が重要であるという点を示した論文かと思います。

教育活動における坂和准教授の哲学と目標について

教育活動においては、「哲学」といえるほど立派なものかどうかは分からないですが、「自分で考えることのできる人になってほしい」ということを最近よく考えています。今の時代は、膨大な情報に簡単にアクセスできる時代になっています。また、AI技術などの台頭もあり、簡単に「今まで知らなかったことへの疑問についての一通りの解答」も得られるようになっています。このような技術の進化した時代において、「人はどのように先端技術と関わるべきか?」という点が大切になってくると思います。

現代社会で教育を受ける人にとって、「自分が知らないことについての何らかの解答」を得ることは簡単です。ただし、その解答が、「本当に自分が今直面している問いの答えなのか?」ということをもう一度考え直すことが大切だと思います。たとえば、「日本のキャッシュレス決済は何故遅れているか?」という問いの答えとして、「偽札の心配がなく、治安がいい国で現金が盗まれにくい」といった答えが簡単に出てきます。しかし、「この答えは本当に妥当でしょうか?」。もしかすると、「電子決済の情報漏洩リスクを気にしているという人が多い」可能性もあります。他にも、色々な可能性があると思います。その意味では、現代社会に生きる人にとっては、一通りの答えを鵜呑みにするのではなく、自分なりに色々と考えることが大切だと考えています。

学生へ向けたメッセージをお願いします

現代は、社会の情報化が進み、いわゆる文系といわれる「経済学・経営学」のような社会科学の分野においても、数多くの社会の多様なデータがそろっています。その意味で、社会で言われているような様々な考え方について、データを使った分析を行うことが可能になっています。私の専門とするコーポレート・ガバナンスの分野でも、日本社会は大きく変貌しています。コーポレート・ガバナンスに興味を持って、進学したいという人は、是非とも社会の変化についてのメディアの記事を鵜呑みにするのではなく、色々な観点から自分なりの考えを持ってほしいと思います。また、文系分野でも、データ分析が重要になっているので、その爲に必要な統計学・計量経済学などの基礎知識を習得されることが大切になると思います。

大きな変化を迎える時代に生きる皆様だからこそ、たしかな自分なりの考え方を持ったうえで、自分の考えの妥当性について、データを使って検証して頂ければと思います。そのようなデータ分析を通じて、様々な自分の考え方への妥当性を検証していくことで、「変化の激しい現代社会」においても、先を見る目が養われるのではないかと思います。

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