東京都立大学大学院経営学研究科 吉羽要直教授

今回の取材では、東京都立大学大学院経営学研究科の吉羽要直教授にお話を伺いました。

東京都立大学大学院経営学研究科の吉羽要直教授の独占取材記事では、教授の金融市場とリスク管理における深い洞察と研究成果に光を当てます。日本銀行での経験を基に、教授は金融データ分析とリスク評価の先進的手法を探求し、金融システムの安定性と効率性向上に貢献しています。

インタビューを受けていただいた人

東京都立大学大学院経営学研究科 吉羽要直教授

東京大学大学院工学系研究科を修了後、日本銀行に入行。調査統計局、金融研究所、金融機構局を経て、2014年から4年間、金融研究所ファイナンス研究グループ長を経験。この間、2006年から現在に至るまで、統計数理研究所の客員教員を務め、2011年に博士(統計科学)を取得。2019年から4年間、日本統計学会の理事を務めた。2021年からは東京都立大学大学院経営学研究科教授として、金融リスク管理を中心とした金融データサイエンスについて、博士前期課程のファイナンスプログラム、博士後期課程の教育と研究に従事している。

目次

自己紹介をお願いします

職業選択を意識し始めたのは大学入試の頃だったと思います。父が銀行員だったこともあり、金融や経済に強く興味を持っていたのですが、数学も得意であり、数学を使った金融・経済分析ができないかと考えました。

そこで、経済学が中心の文科2類ではなく、敢えて応用数理が学べる理科1類を受験し、工学部計数工学科に進学しました。

卒業時はバブル期で、工学部でも金融機関に就職する同期が多かったのですが、数学を使った経済分析の研究には取り組めていなかったので、大学院の修士課程まで修了してから、日本銀行に就職しました。

専門分野となぜその道に進んだのかをお聞かせください

金融リスク管理を中心とした金融データサイエンス、計量ファイナンスが専門です。

より具体的には、金融ポートフォリオのリスクを捉える際の多変量のファクターの従属関係(相関関係)のモデリング、推定などです。ファクターの従属関係は、相関係数という指標で捉えるのが一般的ですが、そうした把握だとストレスが生じた際の従属関係の強さ(裾従属性)を表現できないことが知られています。

そこで、従属関係を一般化した接合関数(コピュラ)に注目し、実務的に用いられることが多い接合関数の特徴を整理したうえで、特に、裾従属性の強い接合関数を用いたリスクファクターのモデリング方法や推定方法について研究を進めています。  

こうした専門分野に進んだ背景には、就職した先が日本銀行であったことが大きく影響しています。

日本銀行には、その目的として、(1)通貨及び金融の調節と(2)信用秩序の維持があり、私の場合は主に(2)の信用秩序の維持に係る調査・研究に携わってきたことが要因です。

丁度入行した頃、国際的に活動する金融機関がトレーディング目的で保有している金融資産の市場リスクについて、バーゼル銀行監督委員会が各金融機関の自己資本賦課をリスクに応じて検討していました。その際に、各金融機関が内部モデルで把握するリスク量として検討されたのが、下方リスクのみに注目したValue-at-Risk(VaR)です。

具体的には99%VaRという指標が利用されるようになったのですが、これは、99%VaRで示される値以上の損失が生じる可能性が1%になるような損失額として定義されます。つまり、1%というストレスの状況で起こり得る損失額を見積もる必要があるので、リスクファクターの裾での従属性(相関)の高まりなどを捉える必要があります。

従来、よく用いられる手法は多変量のリスクファクターに正規分布を当てはめる方法なのですが、こうしたモデリングでは現実に観測される裾従属性の高まりを捉えられず、リスクを過小評価することにつながります。こうした点は、30年以上前の銀行監督に係る研究者の間でも課題として認識されていました。私自身は大学の卒業論文で「非正規分布の推測論」を扱ったこともあって、金融リスク管理の実務面でもニーズの強いこの分野の研究を進めることになりました。

最近の研究テーマ及びその成果についてお聞かせください

現在も引き続き接合関数の研究を続けております。多変量正規分布をもとに構成した実務でよく用いられる接合関数が正規接合関数、裾の従属性に注目した際によく用いられる接合関数がt接合関数です。

これらの性質はよく知られていますが、資産変動の従属性は、資産価格が上昇するときよりも下落するストレス時の方が強くなる傾向があるため、これらの接合関数に非対称性を導入した接合関数について、性質を整理し、推定方法を構築しています。

さらに、こうしたモデリングを大学院で研究し、昨年3月に筑波大学で博士号を取得した方に共同研究を依頼して、パラメータが時間変化する動的な非対称t接合関数の取込みなど洗練された市場価格変動モデルの構築を試みています。

推定方法を構築した新たな非対称t接合関数の市場価格変動への当て嵌まりがよいことが多く、もう少し精緻なモデリングを考察したいと考えています。

個人的には上段の内容はおもしろいと感じて研究を進めているところですが、市場価格のボラティリティ(瞬間的な変動性)が時間に応じて確率的に変動するモデルでは新たな展開が発展しています。

具体的には、ボラティリティの確率変動の特徴として、短期間に大きく変動するという現象が知られるようになってきています。この場合、派生商品価格の評価法など従来の枠組みを変更していく必要性が生じるため、興味深く研究の展開を注視しています。

教育活動における哲学と目標についてお聞かせください

ファイナンスの教育に当たっているので、金融の実務において生じている問題を解決できるような教育を行いたいと考えています。ファイナンスは実学であると認識しており、研究においても常に金融実務に即した研究を心掛けたいと考えています。

 上述のとおり、金融の分析では数学を多用します。実務経験のない研究者はどうしても数学的な分析に焦点が当たりがちで、数学的な取り扱いやすさを重視して金融における実際の動きを反映していないモデルを構築してしまうことが多いように感じています。理論の美しさに自己満足するのではなく、あくまでも社会に役立つ実践的な研究を指導していきたいと考えています。

最後に高校生へ向けたメッセージをお願いします

金融・ファイナンスの分析には数学やコンピュータの利用が欠かせません。こうした基礎的な学力を高校時代から身に付ける努力は望まれます。

一方で、特に大学に入ってからは、金融・ファイナンスに限らず、自分の職業の対象に現実にどのようなことが求められているのか、広い視野で将来を見据えていってほしいです。金融・ファイナンスでは数学やコンピュータはあくまでも道具であり、研究の対象ではありません。大学教育では誤解しがちなところなので、現実世界に視野を広げて注意していくことを望みます。

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